3月に入って、世界中のMTBフリークが興味深々なのがこのフォーク。
Push Industry の、Nine.One
140㎜から170㎜の調整可能なサスペンションフォークで、話題になっているのが、$2600という価格!
国内販売価格は39万8000円!!
まあ、そんなスーパー高価格のほかに話題になっているのが、いわゆる倒立サスペンションっていうこと。
まあ、写真を見ればわかる通り、スタンクションチューブの位置がひっくり返っているのが、Inverted Fork、直訳すれば、逆立ちフォーク、つまり倒立フォーク。
左から、全部フォークの名前を言えたあなた、マニア決定(え)
冗談はともかく、この倒立フォークはオートバイでは当たり前のように使われる構造ですね。
なんで、通常の正立フォークに比べて、倒立フォークがオートバイの世界で多いのかという理由については、ヤマハの米国サイトが分かりやすいイラストを用いて説明しています。
Aの部分は、スタンクションチューブがアウターチューブに被っている部分の長さ。つまり、倒立式のほうがかぶさっている部分が長いため、前後のスラスト方向の剛性が上がるというもの。
さらに、ヘッドの部分で、倒立フォークは外形が太いアウターチューブをクラウンでクランプするため、ここの部分の剛性も上がるというわけ。
よって、オートバイの世界では、レーシングバイクはもちろんですが、ハーレーのような大型クルージングバイクにも、倒立構造が積極的に使われています。
ただ、MTBの世界においては、倒立サスペンションはある一定の懸念がありまして・・・・
スピードはオートバイなみなのに、ねじる挙動が半端なく多いため、フォークがねじれるんですね。
倒立構造だと、細いスタンクションチューブでハブを支えるため、どうしてもねじれやすい。加えて、正立のように、左右のチューブを連結できないので、右と左のスタンクションチューブが独立して動こうとしてしまいます。
ゆえに、過去にいろんなメーカーが倒立にチャレンジしては、消えていった・・・というのが一般論なんですが、これに理論的に異を唱えたのがこの人。
PUSH Industry のボス、ダレンさん(VITAL MTBの動画よりスクリーンショット)
去年のSea Otter で、ダレンさんとはプロトタイプのNine.Oneを目の前に、いろいろ話をしてきたんですが、まぁ、着眼点がとてもユニークな理論派なんですよ。
もし、英語に自信があるなら、下記の動画を見てください。すげー面白いから。
この動画の中で、ダレンさん、倒立フォークを見せると、みんなフロントタイヤを足で挟んで、ハンドルを握って、ひねろうとすると笑って話をしているんです。確かに、倒立に限らず、フォークの剛性を確認するときにはみんなやりますよねぇ(汗)
で、ダレンさん、プロトタイプをテストしているとき、この剛性に懐疑的なライダーに、まずは乗ってくれ、その代わり、フォークに触ってひねろうとするな!と釘を刺して、テストライドしてもらったそうです。
その結果、ライダーは、「倒立なのにすごい剛性だ!!」と感激しまくっていたところ、ダレンさん、「じゃあ、フォークをひねってみて!」と言ったんです(笑)。で、その懐疑的ライダーさん、言われた通りにひねってみたら、フォークがちゃんとねじれるように動いたとのこと(大笑)
この結果に納得できないのが、まさかの懐疑的だったライダーで、「おかしい!走っていた時は、ものすごく剛性が高かった!!」と信じられない様子だったとのこと。
で、ダレンさんが結論つけたのが、走行中の剛性感と、静止時の負荷に対しての抵抗力は、一致しないということなんですね。
ダレンさん曰く、この倒立フォークならではのねじれ特性をうまく使うことで、もっとソフトな乗り心地と、高いタイヤの地面への追従性を得られるとのこと。
ただ、そのためには、アウターチューブの左右のアライメントを限りなく真平行に出す必要があり、むちゃくちゃ時間と苦労がかかった部分だそうです。なんたって、クラウンは、鍛造とかではなく、アルミの塊からNC削り出し。これにアウターチューブを接着で圧入し、熱を入れることによる素材の変化などを徹底的に排除。
そんなわけで、開発にはえらく時間がかかり、素材やパーツに一切の妥協をせずに、すべてハンドビルドをしているおかげで、この価格になったんだそうです・・・納得
でも、他のブランドの倒立フォークも、構造を見るとやはり、アウターチューブの平行度に腐心しているようで・・・・
ドイツのIntendは、一見シンプルですが、クラウン部分にはかなりお金がかかっていそう・・・・
Bright Racing は、アウターチューブがなんとカーボン!でも、それを支えるクラウンを見ると、補強の入り方がすごいですよね。
ただ、ダレンさんは、このカーボンでアウターチューブを作るのは、精度の面から難しくて断念したんだとか(コストの面でも)。となると、このBright Racing のショックは、そこはなにかすごい技術でクリアしているのかも・・・(さすがに買って試せるシロモノではない・汗)
当店的には、激しい下りのライドやビッグジャンプ、ビッグドロップでは、従来の正立式に分があると考えます。
左右のチューブがつながっていることで、しっかりした横剛性が得られて、ハンドリングがシャープになるのが一番の理由。前後方向のスラスト剛性については、スタンクションチューブの大径化で、MTBの重量であれば十分に対応できると思っています。ですから、無理して、倒立構造を持ち込む必要はないんじゃないかなぁ・・・そもそも、オートバイとMTBは、重量が全然違うので、フォークにかかるストレスも簡単に比較できません。
でも、トレイルメインのフォークとして考えるのであれば、フォークのねじれによって路面追従性が高まるのは大きなメリット。ルーズなグラベルとか、その真価を発揮するんじゃないかと思います。
あと、何よりも、なんかスペシャルな感じがいいですよね(笑)。そりゃ、フォークに40万円弱だぜ(滝汗)。見た目が普通じゃ面白くないでしょ(大笑い)
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